これまでのお地蔵さんシリーズの最終回となります。
壬生地蔵の霊験譚
壬生寺(律宗)は園城寺の僧侶・快賢が亡き母の供養のため、延命地蔵菩薩像を造らせ坊舍を建立したのが始まり。
寛弘2年に堂供養も行われ、この時小三井寺と名付けられました。
その後、地蔵院の寺名を賜ったそうです。
本尊の霊験が大いに流布する契機となったのが、『太平記』に収録された壬生地蔵の霊験譚です。
縄目地蔵さま
14世紀の中頃、まだこの国が南朝と北朝に分かれて争っていた頃のお話。
京都の壬生寺にて…
児島高徳率いる南朝方の軍勢は、北朝を立て征夷大将軍となった足利尊氏らを滅ぼそうと京都に忍び込みました。
しかし、北朝側に気付かれ反攻にあい児島勢の多くは討ち死にしました。
香匂高遠は一人、敵の囲みを突破しここ壬生寺まで逃れてきました。
しかしそこで一人の和尚に見つかってしまいます。香匂高遠は素直に太刀を差し出し、代わりに数珠を頂戴しました。
誰かに追われているようだが…これを唱えて御本尊様にお願いすると良い。
そう言って一枚のお札を手渡しました。
香匂高遠は言われた通り、御本尊様の前で唱え始めました。以大神通方便力 勿令堕在諸悪趣…
そこへ北朝側の追手がやって来ました。
一心に祈る香匂高遠を見たにも関わらず見逃してしまいます。何という熱心な地蔵信者であろうか…
今度はそこへ太刀を下げた者がやって来ました。
それは先程の和尚様です。
しかし北朝側の武者たちは、それに気づかず縄をうち牢に閉じ込めてしまいます。次の日、牢まで行くと捉えたはずの者がいません。
不思議に思っていると、ふと香の匂いに気づきます。これは…壬生のお堂と同じ匂いだ。とにかく、地蔵堂へ参ろう。
地蔵堂の中に入ると、縄に打たれた痕が残るお地蔵様がそこにいました。
壬生地蔵様が身代わりをなされたとは…お許しください地蔵様。
ただ、お詫びを申し上げるだけでは罪は消えない…香匂高遠は壬生地蔵様が身代わりになってくれたお陰で、命を助けて頂きました。
そして壬生地蔵を捕らえた者たちは、この日から髪を落とし、お坊さんになりました。
そして壬生地蔵様にお仕えする日々を過ごしました。
お坊さんになった者たちは、あの世の幸せまで地蔵様から授かったそうです。
お地蔵さまが赤い頭巾やよだれかけをつけている姿を見かけませんか?
赤色は仏教において「清く」「正しい」「正直な色」とされています。
また、魔よけの意味もあります。
自分の子供が健康に育ちますようにという願いを込め、親は赤色のものを奉納することが多いのだそうです。
もし、そこの人。
ここは壬生の地蔵院ゆえ、その太刀は預からせていただきます。
代わりにこの数珠を持ちなさい。