無財の七施
「ありがとう。」「おかげさまで。」という気持ちを行動で表す身近な実践として雑宝蔵経(ぞうほうぞうきょう)というお経の中に「無財の七施」 があります。
佛教には人々が人間形成に努めてしあわせや安らぎの境地に至る道として、六波羅蜜の行があり、その第一番目が布施です。布施の「布」は分け隔てなくあまねく「施」は文字通り施すという意味です。万人に等しく施しをする人はもとより受ける人の心も清く布施の内容も清らかであることが大切であると説かれています。世間一般の損得勘定では与えた人よりも与えられた人のほうが得をするようなイメージですが、布施は施したほうが幸せな気分になり、与えられた人よりも与えた人を幸せにするのではないでしょうか?
お経には無財の七施をおこなうことで大いなる果報を得る。と説かれております。 私たちの日常生活において、お金がなくても物がなくても周りの人たちに喜びを与えていく。少しでも喜んでもらうというのが無財の七施の教えです。このように身近の奉仕や実践によって自分を高めることができ、人の心を和ませることができるのです。あらゆる分野がつながりあってこの世の中は成り立っていることを思えば人との出会いはもちろん、お互いに助け合い支えあって生きていくことを心がけねばなりません。
おしょうさんのひとりごと
もう、ずいぶんむかしのことになりますが、私は若いころ、高山は下二之町の屋台蔵(鳩峯車)の隣に「林フジ先生」と、妹の「林千代子先生」の姉妹が住んでおられ、私たちはお茶の先生である千代子先生の弟子として通っており、「フジねさま」「千代さま」 の通称で呼んでおりました。お稽古場は二階の十畳で、隣に水屋があり、茶巾娘のわきにこの(無財の七施)の解説が貼ってありました。
フジねさまが貼られたものでしょう。こうした言葉があるというのを知ったのはこういう御縁でした。そのほかに千代さまが手書きで(心頭を滅却すれば火も また自ずから涼し) というのが貼ってあり、これは武田信玄のお師匠さん、甲斐の恵林寺快川和尚の句であります。私たち、ずぼらな弟子たちに対する(お稽古の間ぐらい我慢して勉強せよ。) という、戒めの言葉であったように思います。
フジねさまは長年教育者として名高い方であったばかりでなく、身障者施設・山ゆり学園の生みの親としても知られております。お二人の生活は極めて質素で、フジねさまがお亡くなりになったとき裏の居間のかたずけをお手伝いさせてもらいましたが裏庭に向かって雨戸にあたるガラス戸がなく、ふきさらしになっていたのには驚きました。千代さまは山田五十鈴似の上品で美人だったのに比べ、フジねさまはいかつい顔の男性的な性格だったのを思い出します。しかし千代さまにはとても厳しく、私たちにはとてもやさしくてくださいました。「千代はええなあ、いいお弟子がたくさんあって。」が、口癖でした。 また、弟子仲間には、「千代をどうか頼みますぜな。」 千代さまが一人になられた時を心配しての言葉だったように思います。
確かにフジねさまは心優しい方でありました。かれこれ五十年も前のことではありますが (無財の七施)は林フジ先生が私たち弟子仲間がこんな心がけでいてくれればの親心であったように思います。無財の七施の解説をさせていただくに当たり、蛇足ではありますが、昔話を紹介いたしました。
住職合掌
①眼施 (げんせ)
優しいまなざし 目は口ほどにものをいう。相手を思いやる心で相手を見つめるとお互いがうちとけることができるで しょう。
②和顔施 (わがんせ)
にこやかな顔で接する。顔はその人の気持ちを表します。和やかで穏やかな笑顔を絶やさないようにしましょう。 また、メールの顔文字も工夫してみましょう。
③言辞施(ごんじせ)
優しい言葉で接する。言葉は人間関係を円滑にするコミ ニケーションの大事な方法です。相手を思いやる優しい言葉で接していきましょう。「こんにちは」「有難う」「おつかれさま」優しい言葉はたくさんあります。
④身施(しんせ)
自分の体で出来ることを奉仕する。重い荷物をもって差し上げる。お年寄りや体の不自由な方をお手伝 いするというような奉仕です。よいと思ったら実行し、相手の喜んでいただくと同時に自分の心も高められます。
⑤心施(しんせ)
他人のために心をくばる。 心の持ち方でものの見方が変わってしまうように、心はとても繊細なもので自分だけがよいのでなく心底、ともによろこび他人の痛みや苦しみを自分のこととして感じとれば本物でしょう。思いやりの心から自然といい顔、やさしいまなざしになるでしょう。
⑥床座施(しょうざせ)
席や場所を譲る。「どうぞ。」のひとことで電車や会場でお年寄りや困っている方に席を譲る。座席だけでなくすべてのものを分かち合い譲り合うことが大切です。なにごとも独り占めはいけません。
⑦房舎施(ぼうじゃせ)
四国には今もお遍路さんをもてなす「おせったい」という習慣が残っています。 昔はホテルや旅館がありませんから、一夜の宿をお接待するということがありました。普段から来客に対しあたたかくおもてなししましょう。また雨宿りやあいてに傘をお貸しするのもこの行いの中に含まれるかもしれません。