獅子身中の虫

獅子身中の虫
獅子身中の虫

虫が苦手な恩林寺の小僧です。

最近、蒸し暑い時期が続いていますね。
梅雨時期ということもあり、草花が急成長しています。
それに伴い、虫たちも騒ぎ出す時期になってきました。
虫が苦手な私は、普段から無視するようにしています。

獅子身中の虫

皆さんは「獅子身中の虫」ということわざをご存じですか?
元々、この言葉は涅槃経ねはんぎょうというお経に出てきます。
獅子は百獣の王であり、その強靭な体はどんな動物にも傷つけられません。
しかし、その獅子を滅ぼすことができるのは、獅子の体内に宿る虫である。
そんな比喩から来ています。

これを仏教に当てはめると、仏法の教えは非常に強固であり、外部からの攻撃によって滅びることはありません。
しかし、その仏法を破壊するのは、仏教徒でありながら教えに背いたり、教団の規律を乱したり、私利私欲のために行動したりする者たちだということです。

大般涅槃経

大般涅槃経には以下のような趣旨の記述があります。

師子身中に自ら諸虫を生じ、かえってその肉をらう。
外の虫に食われるにはあらざるがごとく、仏法もまた仏弟子によってやぶらる。
外道や天魔などの外より壊らるるに非ざるがごとし。

小僧さん訳

獅子の身体の中に自ら虫が発生し、その虫が獅子の肉を食べて獅子を滅ぼしてしまう。
外からやってくる虫によって食い殺されるのではない。
これと同じように、仏教の教えも、外の者(外道や天魔など)によって破壊されるのではなく、仏教徒自身(仏弟子)によって破壊されてしまうのである。

この教えは、仏教の内部にいる者が、教えに背いたり、規律を破ったり、私利私欲に走ったりすることで、仏法が衰退し、滅びていく危険性があることを強く警告しています。

梵網経

梵網経ぼんもうきょうにおいても、『大般涅槃経』と同様に「獅子身中の虫」のたとえが記されています。

なんじ仏子、好心を以て出家せるに、名聞利養の為に、国王・百官の前に於て、七仏戒を説くは、横に比丘・比丘尼の菩薩弟子のために、繁縛の事をなすこと、獅子身中の蟲の、師子の肉を食ふが如し。
余外の虫に非ざるが如し、是の如く、仏子自ら仏法を破る。外道・天魔のよく破るに非ず。

小僧さん訳

あなたたち仏の弟子たちは、良い心をもって出家したにもかかわらず、名声や利益のために、国王や多くの人々の前で(誤った)七仏戒を説くことによって、かえって比丘(男性の僧侶)や比丘尼(女性の僧侶)といった菩薩の弟子たちを煩わしく縛りつけるような行いをすることは、あたかも獅子の体内に宿る虫が、自ら獅子の肉を食い尽くすようなものである。
外の虫によって食い殺されるのではないのと同じように、このように、仏の弟子自身が仏法を破壊するのであり、外道や天魔といった外部の者によって破壊されるのではない。

『梵網経』では、特に出家者が私利私欲に走り、誤った教えを説いたり、不必要な戒律を設けたりすることで、かえって仏法を損なうことへの強い戒めとして「獅子身中の虫」のたとえが使われています。

仁王般若経

仁王般若経は般若経の一種。
そこには、「獅子身中の虫」のたとえが以下のような形で記されています。

三宝を滅破すること、獅子身中の虫の、みずから獅子を食うがごとく…

小僧さん訳

仏法僧の三宝(仏教の教え、修行者、教団)を破壊するような行為は、あたかも獅子の体の中にいる虫が、自ら獅子の肉を食い尽くすようなものである…

「仁王経」は、特に日本において、国家の安寧を祈るための重要な経典として重んじられ、多くの高僧によって講義されてきました。
そのため、「獅子身中の虫」という言葉は、仏教の教えだけでなく、組織や集団のあり方を考える上でも広く知られることになったのです。

豆知識

萬福寺の僧堂には「獅子吼」という言葉が飾られています。
仏や菩薩が説法する際に、その声が獅子の咆哮のように力強く、一切の邪説や異論を打ち破る様子を形容した言葉です。
獅子が百獣の王としてその一声で他の動物を圧倒するように。
仏の説法もまた、すべての迷いや誤った考えを払拭する絶大な力を持つとされています。

報恩を大切に

私たちが今、この瞬間を生きているのは、本当に多くのご縁のおかげです。

感謝の心で日々を生きる

私たちをこの世に送り出してくれた両親。
私たちが呼吸する空気、安らぎを得られる住まい、そして社会の秩序をもたらす様々なルール。
これらすべてが、私たちを生かしてくれているかけがえのないものです。
そして、時には目に見えない「仏さま」や、生きる道を示してくれる「仏教」といった存在もまた、私たちの心を支え、導いてくれる大きなご縁ではないでしょうか。

私たちは、これら一つひとつに心からの感謝を捧げなければなりません。そして、その感謝の気持ちを、ただ心に留めるだけでなく、行動として「恩に報いる」ことが何よりも大切です。

日々の行いを顧みる

私たちは日々の暮らしの中で、知らず知らずのうちに「悪行」を重ねてしまってはいないでしょうか。
あるいは、仏教が説く慈悲の教えに背くような振る舞いをしてはいないでしょうか。

これから夏に向けて、店頭には殺虫剤や蚊取り線香が並ぶようになります。
私たちは、快適な生活を送るために、どうしても「殺生」をしてしまうことがあります。
もし、そうした生き物の命を奪ってしまった時、あなたはどれほどの深い心を寄せているでしょうか。
その小さな命に手を合わせ、感謝と鎮魂の祈りを捧げているでしょうか。

振り返りが、豊かな人生を育む

日々を振り返り、自分の行いを見つめ直すこと。
それが、私たちをより豊かな人間へと成長させてくれるはずです。
感謝の気持ちを忘れず、恩に報いる生き方を心がけることで、私たちの人生はさらに深みを増していくことでしょう。

小僧さん

夏が近づくと、賑やかに飛び交う虫たち。
幼い頃、顔に蝉が付いた時から、飛ぶ虫がトラウマになってしまいました。
その頃の記憶が、その光景を少しばかり憂鬱なものに変えてしまいます。
暑さも相まって、苦手な季節の始まりです。

しかし、考えてみれば、この世界は本当に見事に調和しています。
もし虫がいなければ、花々は受粉できず、酸素を生み出す植物も増えません。
そうなれば、私たち人間も生きていくことはできないでしょう。

そう、苦手だと感じてしまう虫たちもまた、私たちを生かしてくれている大切な存在なのです。
この夏は、そんな小さな命に感謝しながら、共に過ごしてみてはいかがでしょうか。

小僧合掌🙏

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恩林寺の小僧さん
檀信徒の皆さんに『一休さん・小僧さん…』様々な愛称で呼ばれております、鳳雅禅士です。「一日一善」を心がけながら、日々精進していきます。感謝・合掌。