水ばなのおもてなし(因縁)
ある和尚さんが、お檀下まいりに行ったところ、お婆さんが出てきて「ただいまご飯を炊きますからどうぞ召し上がってください。」と、親切にすすめるので「では遠慮なくご馳走になります。と、読経したあとで席について待っていた。
しかし、おばあさんがお櫃にご飯を移すのを見ていると、鼻から水洗(みずばな)が出て、ぽたり、ぽたりとご飯の中に落とすので、どうにも食べる気がしなくなった。
「お婆さん、ワシは 急に腹が痛くなったので、せっかくだけれど、ご馳走にならずに帰ります。」 と、言って丁寧にお断りすると「まあまあ、せっかくお膳立てしたのですから少しなりと」と、薦めるのを、「おお、 痛い、痛い。」と、腹を抑えながら顔をしかめて逃げ出した。
数日の後、和尚さんはそのとなりの家まで行く用事があったので素通りするのも悪いと思い、「おばあさん、このあいだは大変失礼しました。」と、 声をかけると、お婆さん、待ってました。とばかりに「どうぞ、どうぞ、私の家で一服していってください。」袖を取って引っ張り込むので、「それではちょっと」と、上がり口に腰をおろした。
するとお婆さん、「和尚さん。 甘酒は嫌いじゃないかね。」と、聞く。
もともと、甘いものが好きな和尚「好きなほうじゃが。」と、答えると「それなら、暖めましょう。」と、すぐコンロに乗せて暖め、たちまち大きな茶碗にもって差し出した。
「なかなかうまいよ。おばあちゃん。よう、甘みが出ておる。」といって, 三杯もお変わりしたあとで「おばあちゃん。よくまあ、 一人暮らしでこんなに沢山の甘酒をつくられましたなあ。」と、たずねたところ,「いえいえ、この間、和尚さんに召し上がっていただこうと思って炊いたご飯を、召し上がってくださらぬので仕方ないから、あのご飯で甘酒を造ったのです。」と。
因縁は逃れられないものですぞ。
*因果は、皿のふちを一回りするぐらいの早さで巡ってくる。とか、 昔の人は言ったげな。
和尚さんの一言
うーん。どこかで、このような場面に 出会ったような気がする。人間、ときどきはこんな事になるかもしれん。
この先どうなるなんて、予感はするけど、はまりこんでしまうものなんだよね。
住職合掌